編集者注:この報告は2024年2月8日に更新され、研究者らが分析した2020年の船舶データの出典情報が修正されました。
IUU(違法・無報告・無規制)漁業は、世界の海洋の持続可能性に対する最大の脅威のひとつです。研究者らは、世界中で水揚げされる水産物の少なくとも5分の1が違法であり、沿岸諸国に与える影響は年間総額100億米ドルから230億米ドルに達すると推定しています 1。
2016年に発効した国際連合食糧農業機関の違法漁業防止寄港国措置協定(PSMA)は、IUU漁業による漁獲物の市場流入を防止、抑止、排除することを目的に採択された法的拘束力のある唯一の国際条約です 2。PSMA加盟国はIUU漁業のリスクを最小限に抑え、外国漁船による港での水揚げや、魚などの海洋野生生物を漁船と運搬船の間で移送する積み替えが合法的に行われるよう、徹底した管理の履行が求められています。また、この協定では、加盟国が自国船の監視のために同様の管理を履行することも求めています。
PSMAの履行率における隔たりを特定するため、The Pew Charitable Trustsでは、Poseidon Aquatic Resource Management(ポセイドン水産資源管理)とGlobal Fishing Watch(グローバル・フィッシング・ウォッチ)の調査員による査読調査を委託し、その結果を2023年発行の専門誌Marine Policyに掲載する予定です 3。調査チームでは、自動識別システム(AIS)による2020年の漁船と運搬船の位置データやその他の公的情報を利用し、沿岸国の漁港を外国船の寄港数、漁船積載量、運搬船積載量なども用いてさまざまな尺度でランク付けしています。これにより、違法に捕獲された魚が市場に出回るリスクの最も高い国を明らかにし、PSMAの効果的な履行が最大の影響を与えている港を特定しました。
この調査は、2019年に行われた2017年のAISデータを使用したその類としては初の調査に基づいており、漁業と運搬船の運航をより深く理解し、最も利用されている港と、IUU漁業による漁獲物がそこに水揚げされるリスクを特定します。また、2019年にJournal of Ocean and Coastal Economicsに掲載された査読付き論文もこの分析に基づくものです 4。今回の最新調査には、PSMAの重要な要件である指定港(各国が徹底した管理を履行するために外国船を誘導する港湾)の使用に関する詳細な分析が含まれています 5。
最新の調査結果は、調査年間の港湾ランクの大きな変化、特に自国船のAIS検出と追跡評価の改善、PSMAおよび寄港国措置(PSM)の採用と履行の変化、および新型コロナウイルス感染症関連の港閉鎖の影響を示しています 7。
主要な所見は以下の通りです。
この調査は総じて、違法漁獲船がPSMA加盟国の港を避ける傾向を助長していることを示しており、より多くの国のPSMAへの加盟を強く主張しています。
この報告は調査結果の概要と、各国によるPSMA履行に役立つ重要な推奨事項を示しています。
2017年と同様に、2020年も漁船と運搬船の寄港総数に関して世界上位の港湾10か所を中国が独占しており、水揚げ量の大部分も中国船が占めていることがわかっています(図1を参照)。しかし、この3年間で中国での利用港が変化し、船舶の総交通量が50%も増加しました。これは、AIS検出アルゴリズムが改善し、調査でより多くの沿岸データを提供する別のAISプロバイダーを使用したためであると考えられます。
PSMAは、漁獲物の水揚げや積み替えのために入港しようとする外国漁船に対し、各国がより厳格な管理を履行することを目指しています。そのためこの調査では、船舶の寄港が全体的に最も多かった港の分析に加えて、外国船の水揚げが最も多い港、および漁船や運搬船の漁獲能力が最も高い国を特定しました。この調査結果は、効果的な港湾対策を履行し、IUU漁業による漁獲物の市場流入リスクを最小限に抑えているPSMA加盟国に対して、より的を絞った支援の提供に役立つものと思われます。
この分析から、最初の調査以来、外国船の全体的な寄港数が増加したことや、寄港の傾向が大幅に変化したことがわかりました(図2を参照)。例えば、モーリタニアのヌアジブ港は、外国船の寄港数が2倍以上も増え、寄港数ランクは2017年の5位から2020年には1位に躍進しました。ヌアジブ港に水揚げした外国漁船の国籍は、トルコ(930件)を筆頭に、中国(299件)、スペイン(293件)、カメルーン(183件)の順でした。このほか、韓国釜山港への寄港数は10%以上減少して1位から2位にランクを落とし、寄港数の国籍は漁船、運搬船ともにロシア(837件)、中国(178件)、パナマ(146件)でした。
さらに、太平洋沿岸の多くの港湾では、新型コロナウイルス感染症の影響による閉鎖や規制で、2017年と比べて2020年の寄港数は大幅に減少しました。マーシャル諸島共和国のマジュロ港は外国船の寄港数が40%以上減少、フィジーのスバ港は50%以上減少し、両港とも上位10位から外れています。新型コロナウイルス感染症の影響で寄港数が大幅に減少したと見られるその他の港には、エクアドルのマンタ港(-78.4%)、ノルウェーのキルケネス港(-73.3%)、ナミビアのウォルビスベイ港(-51.3%)、モーリシャスのポートルイス港(-48.7%)、コートジボワールのアビジャン港(-35.9%)、ミクロネシア連邦のポンペイ港(-43.8%)が含まれます。
寄港数の変化は、2つの調査間における寄港外国漁船の積載量の変化とほぼ並行していました(図3を参照)。例えば、ヌアジブ港に寄港する船舶の積載量は、2017年と比較して2020年には3倍に増加しましたが、マジュロ港では積載量が少なくとも60%減少しました。
外国の運搬船の積載量別寄港順位も調査年度間で大幅に変化しましたが、1位は依然として釜山港でした。2017年に上位にリストされていた主に太平洋沿岸の港は、新型コロナウイルス感染症関連の規制による影響で2020年に上位を外れましたが、代わりにフィリピン、欧州、日本の港が上位10位に入りました。さらに、総積載量はこの3年間で56.8%増加しました(図4を参照)。
2020年の総寄港船舶数(1,705,358隻)のうち、ほとんどは自国内の港で水揚げし(1,655,429隻)、国外の港で水揚げした漁船はごくわずかでした(49,929隻)。総寄港船舶数は、最初の調査の775,453隻から大幅 に増加しましたが、これはAISアルゴリズム検出の進歩の結果とみられ、特に国内の寄港では両年の寄港の大部分を占め、2017年には合計40,992隻でした。その結果、2020年の全寄港数のうち、入港先の限定、入港の事前通知、リスク評価など、外国船を対象としたPSMAの主な条項に該当したのはわずか2.9%でした7。
世界的に見て、外国船の寄港数が最も多いのは欧州の港で、そのほとんどが他のEU諸国からの船舶でした。外国船の寄港数が多かった2番目と3番目の港は、それぞれアジアと、中南米およびカリブ海地域の港でした(図5を参照)。その他の地域は、外国船の寄港数全体の10%未満です。
比較すると、外の漁港の利用が最も多いのは中南米およびカリブ海地域(25.6%)の船舶で、次いで南西太平洋(15%)、アフリカ(12.6%)、近東(10.8%)、欧州(4.6%)と続いています(図6を参照)。自国の漁港の利用が最も多かったのは、アジア(1.1%)と北米(0.8%)の船舶でした。
IUU漁業による漁獲物が140の沿岸国の港を通過するリスクを評価するため、調査では、AISで検出された各港の船舶交通量と、国内リスクと国外リスクを組み合わせた指標を策定しました(表1を参照)。例えば、国内リスクの指標の1つに汚職の認識レベルがありますが、IUU漁業が疑われる船舶の寄港は国外リスクの指標となります。
表1
寄港国におけるIUU漁業リスク指数の元となる指標
カテゴリー | AISベース | 優先順位 | 説明 |
---|---|---|---|
一般 | はい | 該当なし | 1. 漁船が操業する商業港を運営 |
はい | 高 | 2. 商業漁港の数 | |
いいえ | 中 | 3. PSMA加盟国 | |
いいえ | 中 | 4. 地域漁業管理機関(RFMO)の加盟国または協力的非加盟国による拘束力のある寄港国措置決議および透明性のあるコンプライアンス監視 | |
国内 | いいえ | 高 | 5.RFMO寄港国による拘束力のある保護および管理の措置についてのコンプライアンス記録 |
いいえ | 中 | 6.トランスペアレンシー・インターナショナルの汚職認識指数ランキング | |
いいえ | 低 | 7.EUが特定した寄港国のステータス* | |
いいえ | 低 | 8.米国が特定した寄港国のステータス* | |
いいえ | 中 | 9.RFMO内の寄港国のステータス* | |
はい | 中 | 10.外国漁船の寄港数 | |
はい | 高 | 11.入港する便宜置籍船(および海上移動業務識別コードが不明な船舶) | |
はい | 高 | 12.入港する漁船の船籍の平均ガバナンス指数† | |
はい | 高 | 13.IUUリスト漁船の入港 | |
国外 | はい | 中 | 14.EUカード船籍の漁船の入港 |
はい | 中 | 15.米国カード船籍の漁船の入港 | |
はい | 中 | 16.漁船が入港する寄港国の平均国内リスク(指標1~9) |
注:「漁船」とは、漁船および運搬船を指しています。
* ステータスとは寄港国について、欧州連合(EU)、米国、またはRFMO機構が低パフォーマンスと特定したか、その旨の警告を発したことを示します。
† 特定の港に入港した外国船についてのトランスペアレンシー・インターナショナルの平均汚職認識指数スコア。
出典:“IUU Safe Havens or PSMA Ports:A Global Assessment of Port State Performance and Risk”(IUUの安全な避難港またはPSMAの港:寄港国のパフォーマンスとリスクのグローバル評価)」(近日予定)https://doi.org/10.1016/j.marpol.2023.105751
この分析では、国内リスク、国外リスク、および総合的なリスクレベルに基づいて寄港国にスコアとランクを付け、スコアが低いほどリスクが低いことを示します。国内リスクのスコアでは、PSMAへの加盟など、各国がIUUリスクの削減のためにどの程度措置を講じているかを把握します。国外リスクのスコアは、各港に寄港した船舶のIUU漁業歴を反映します。内部スコアと外部スコアの平均が総合リスクのスコアとなります。
2017年から2020年の変化の傾向としては、PSMA非加盟国の港でリスクが増加し、加盟国以外の船籍による寄港数が増えています。今後の分析により、この傾向の重要性がさらに解明されるものと思われます。
表2
世界の寄港国リスクの種別と変化率の比較(2017年と2020年)
国内リスクスコア | 国外リスクスコア | 総合リスクスコア | |
---|---|---|---|
2017 | 2.299 | 2.479 | 2.404 |
2020 | 2.226 | 2.517 | 2.383 |
差(%) | -1.8% | +1.0% | -0.5% |
注:総合リスクスコアは、調査間でわずかに(-0.5%)改善しました。これは主に、IUUで漁獲された漁獲物が水揚げされるリスク(国内リスク)を軽減するための各国の改善によるものですが、その一方で、より高リスクな船舶の活動(国外リスク)の増加が最大の脅威となっています。
出典:「IUU Safe Havens or PSMA Ports:A Global Assessment of Port State Performance and Risk(IUUの安全な避難港またはPSMAの港:寄港国のパフォーマンスとリスクのグローバル評価)」(近日予定)
表3
リスクレベルのランク、リスクの種別および地域別スコア(2017年と2020年)
順位 | 国内リスクスコア | 国外リスクスコア | 総合リスクスコア |
---|---|---|---|
1 | 欧州 (2.06) | 南西太平洋 (2.31) | 北米 (2.24) |
2 | 北米 (2.06) | 北米 (2.41) | 欧州 (2.27) |
3 | アフリカ (2.22) | 中南米およびカリブ海地域 (2.42) | 中南米およびカリブ海地域 (2.35) |
4 | 中南米およびカリブ海地域 (2.26) | 近東 (2.47) | アフリカ (2.40) |
5 | アジア (2.48) | 欧州 (2.48) | 南西太平洋 (2.41) |
6 | 南西太平洋 (2.51) | アフリカ (2.54) | アジア (2.54) |
7 | 近東 (2.68) | アジア (2.59) | 近東 (2.65) |
順位 | 国内リスクスコア | 国外リスクスコア | 総合リスクスコア |
---|---|---|---|
1 | 北米 (1.88) | 欧州 (2.34) | 欧州 (2.12) |
2 | 欧州 (1.89) | 南西太平洋 (2.36) | 北米 (2.13) |
3 | アフリカ (2.19) | 北米 (2.38) | アフリカ (2.36) |
4 | アジア (2.29) | アフリカ (2.54) | 南西太平洋 (2.40) |
5 | 中南米およびカリブ海地域 (2.38) | アジア (2.58) | 中南米およびカリブ海地域(2.53) |
6 | 南西太平洋 (2.44) | 中南米およびカリブ海地域 (2.64) | アジア (2.43) |
7 | 近東 (2.53) | 近東 (2.74) | 近東 (2.72) |
注:2017年と2020年の調査ではリスクに差異が見られました。中南米およびカリブ海地域では、国レベルでの軽減措置(国内リスク)が減少し、港に水揚げする高リスクな船舶(国外リスク)が増加した結果、最も大きな変化が生じました。2020年の時点で、近東はすべてのリスクカテゴリーの中で最も高いIUUリスクを保持していました。国内リスクスコアは、国がIUUリスクを軽減するための措置を講じているかどうかを評価します。国外リスクのスコアは、寄港を試み,るIUUの漁獲物運搬船に関するリスクを評価します。
出典:G. Hosch、その他、「Any Port in a Storm: Vessel Activity and the Risk of IUU-Caught Fish Passing Through the World’s Most Important Fishing Ports(窮余の策:世界の最重要港における船舶活動およびIUU漁獲物の通過リスク)」(2019)、https://cbe.miis.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1097&context=joce、「IUU Safe Havens or PSMA Ports:A Global Assessment of Port State Performance and Risk(IUUの安全な避難港またはPSMAの港:寄港国のパフォーマンスとリスクのグローバル評価)」(近日予)
表4
Tリスクの種別および地域別の最高リスクと最低リスクの寄港国上位3位(2020年)
地域 | 国内リスクスコア | 国外リスクスコア | 総合リスクスコア |
---|---|---|---|
アフリカ | サントメ・プリンシペ セネガル ガンビア |
ケニア ガンビア タンザニア |
ガンビア ケニア カーボベルデ |
アジア | モルディブ スリランカ 日本およびシンガポー |
スリランカ ミャンマー 北朝鮮 |
スリランカ モルディブ シンガポール |
欧州 | リトアニア ベルギー フィンランド |
フィンランド エストニア キプロスおよびドイツ |
フィンランド ベルギー キプロスおよびエストニア |
中南米およびカリブ海地域 | バルバドス バハマ キューバ |
バハマ メキシコ ブラジルおよびトリニダード・トバゴ |
バハマ ニカラグア トリニダード・トバゴ |
近東 | オマーン リビア エジプトおよびレバノン |
ジブチ イラン レバノンおよびアラブ首長国連邦 |
ジブチ オマーン リビア |
北米 | カナダ | カナダ | カナダ |
南西太平洋 | クック諸島 オーストラリア |
クック諸島 パラオ |
クック諸島 パラオ |
ニュージーランド | ニュージーランド | トンガおよびバヌアツ | トンガおよびバヌアツ |
地域 | 国内リスクスコア | 国外リスクスコア | 総合リスクスコア |
---|---|---|---|
アフリカ | コンゴ民主共和国(DRC) カメルーン コンゴ共和国 |
スーダン サントメ・プリンシペ ガーナ |
DRC ナイジェリア ギニアビサウ |
アジア | 北朝鮮 中国 ベトナム |
中国 タイ フィリピン |
中国 ベトナム マレーシア |
欧州 | ロシア フランス イスラエル |
モンテネグロ ロシア クロアチア |
ロシア イスラエル モンテネグロ |
中南米およびカリブ海地域 | スリナム ドミニカ共和国 コロンビア |
エルサルバドル セントクリストファー・ネイビス バルバドス、ドミニカ共和国、ガイアナ、セントルシア |
ドミニカ共和国 コロンビア セントルシア |
近東 | バーレーン アラブ首長国連邦 カタール |
クウェート カタール サウジアラビア |
カタール バーレーン クウェート |
北米 | 米国 | 米国 | 米国 |
南西太平洋 | パプアニューギニア(PNG) キリバス ミクロネシア連邦(FSM)およびソロモン諸島 |
サモア キリバス ツバルおよびニュージーランド |
キリバス PNG ソロモン諸島およびFSM |
注:国のランキングは個々の地域内でのみ適用されます。複数の国がリストされている場合、リストされているすべての国のスコアは同じでした。
出典:G. Hosch、その他、「Any Port in a Storm: Vessel Activity and the Risk of IUU-Caught Fish Passing Through the World’s Most Important Fishing Ports(窮余の策:世界の最重要港における船舶活動およびIUU漁獲物の通過リスク)」(2019)、https://cbe.miis.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1097&context=joce、「IUU Safe Havens or PSMA Ports:A Global Assessment of Port State Performance and Risk(IUUの安全な避難港またはPSMAの港:寄港国のパフォーマンスとリスクのグローバル評価)」(近日予定)
調査では、2020年のリスクスコアデータに基づき、寄港国の国内リスクと国外リスク、PSMAの加盟国と非加盟国の間の国内リスクと国外リスクのスコア、寄港国のリスクと汚職認識指数(CPI)スコア、船籍および寄港国のCPIスコア、寄港国全体のIUUリスクと国民1人当たりの総所得を主な変数とする潜在的に重要な関係の統計的分析を実施しました。分析の結果、次のことがわかりました。
PSMAの重要な条項では、外国船が漁獲物を水揚げする港を加盟国が限定することを求めています。指定港は、入港を求める外国船のリスク評価を実施する適切な設備を有し、水揚げを希望する漁船が漁獲証明に必要なすべての情報を提出することを要求します。
国際連合食糧農業機関のデータベースには、公開ホストされているPSMAの指定港アプリにおいて2020年の時点でEUの18か国を含む32か国が指定港を選択していることを示しています。今回の調査ではこれらの国の指定港の利用状況を分析し、その履行状況が大幅に異なることが明らかになりました 8。
EUの指定港以外に寄港した外国船の割合は、2020年には46.6%と、ほぼ半数を占めていました(表5を参照)。指定港への寄港率が最も低かったのは下からベルギー(1.4%)、フランス(16.8%)、ギリシャ(17.4%)、ポルトガル(25%)でした。これに比べて、ブルガリアとリトアニアは指定港を100%使用していました。
表5
EU18か国の指定港寄港統計(2020年)
EU寄港国 | 外国船(EU非加盟国)の寄港総数 | 指定港への外国船(EU非加盟国)の寄港数 | 指定港への外国船(EU非加盟国)の寄港率(%) |
---|---|---|---|
ベルギー | 147 | 2 | 1.4% |
ブルガリア | 1 | 1 | 100.0% |
クロアチア | 2 | 1 | 50.0% |
キプロス | 0 | - | - |
デンマーク | 1,167 | 510 | 43.7% |
フィンランド | 0 | - | - |
フランス | 95 | 16 | 16.8% |
ドイツ | 45 | 23 | 51.1% |
ギリシャ | 23 | 4 | 17.4% |
アイルランド | 27 | 26 | 96.3% |
イタリア | 28 | 26 | 92.9% |
ラトビア | 9 | 8 | 88.9% |
リトアニア | 43 | 43 | 100.0% |
オランダ | 275 | 269 | 97.8% |
ポーランド | 126 | 118 | 93.7% |
ポルトガル | 8 | 2 | 25.0% |
ルーマニア | 0 | - | - |
スウェーデン | 107 | 95 | 88.8% |
合計 | 2,103 | 1,144 | 54.4% |
注:EUの法律では、EU加盟国の船舶が指定港を使用することを義務付けていません。
出典:「IUU Safe Havens or PSMA Ports:A Global Assessment of Port State Performance and Risk(IUUの安全な避難 港またはPSMAの港:寄港国のパフォーマンスとリスクのグローバル評価)」(近日予定
EU非加盟国の寄港地では、外国船の39.6%が指定港を利用しておらず、指定港の寄港率が最も低かったのは日本(38.1%)、ノルウェー(50.9%)、アイスランド(66.5%)でした。一方、最も高かった(100%)のは、ガンビア共和国、ガーナ、ケニア、モルディブ共和国、サントメ・プリンシペ、セーシェル、トーゴでした(表6を参照)。
これらの調査結果は、先進国よりも途上国が一貫して効果的に指定港湾条項を履行していることを示しています。ただし、途上国では漁獲物を水揚げするための施設が少なく、寄港数も少ないため、指定港の寄港率を高くする要因になっているとも考えられます。
表6
EU非加盟国14か国での指定港への寄港統計(2020年)
寄港国 | FVV数 | 指定港に入港 | % |
---|---|---|---|
オーストラリア | 63 | 55 | 87.3% |
チリ | 282 | 261 | 92.6% |
ガンビア共和国 | 30 | 30 | 100.0% |
ガーナ | 170 | 170 | 100.0% |
アイスランド | 258 | 217 | 66.5% |
日本 | 1,554 | 528 | 38.1% |
ケニア | 10 | 10 | 100.0% |
モルディブ共和国 | 16 | 16 | 100.0% |
ニュージーランド | 134 | 123 | 91.8% |
ノルウェー | 1,738 | 1,059 | 60.9% |
サントメ・プリンシペ | 2 | 2 | 100.0% |
セーシェル | 343 | 343 | 100.0% |
トーゴ | 58 | 58 | 100.0% |
バヌアツ | 59 | 49 | 83.1% |
合計 | 4,717 | 2,849 | 60.4% |
注:EU域外の指定港の利用状況は、2020年のデータセットの対象期間中、54.4%から60.4%へわずかに改善し、ほとんどの途上国の利用率は100%でした。
出典:「IUU Safe Havens or PSMA Ports:A Global Assessment of Port State Performance and Risk(IUUの安全な避難港またはPSMAの港:寄港国のパフォーマンスとリスクのグローバル評価)」(近日予定)
PSMAの加盟国は、IUU漁業による漁獲物の水揚げリスクを最小限に抑える取り組みを進めてきました。しかし、PSMAの非加盟国やPSMを遵守していない国は、非加盟国を船籍とする外国船への規制のない港へアクセスを求められることが増えており、増大する圧力に対峙しています。高リスクな船舶の港へのアクセスをより適切に制限するには、すでに緩い規制でPSMAを履行うる国ではPSMAの条項をより厳格に遵守することが求められるほか、さらにより多くの国がこの協定に加盟し、条項を履行する必要があります。この目標をサポートするため、Pewでは次の4つの推奨事項を示しています。
2020年の世界的な寄港国リスクは2017年と比較してわずかに改善しましたが、PSMAの条項、特に指定港の使用をより効果的に実施するにはさらなる前進が求められます。高リスクな漁船は港湾管理の緩い港を探す傾向にあるため、PSMA非加盟国を船籍とする船舶の追跡はリスクを評価するうえで重要です。
さらに、外国船の寄港は総寄港数の3%未満であるため、自国船の検査は非常に重要です。各国は、自国船へのより効果的な港湾管理を優先し、外国船と同じ基準を適用することが求められます。最後に、PSMAへの加盟や、PSMの効果的な履行は、IUU漁業による漁獲物の市場流入リスクに対する有効な抑止力となります。この調査は全体として、PSMAが非常に効果的であることを実証しており、高リスクな漁船が違法漁獲物を水揚げする機会を最小限に抑え、最終的には世界中でIUU漁業を根絶させるために、協定を世界規模で完全に履行する必要性を示唆しています。
この調査は、以前の2つの評価に基づいています。Poseidonによる2015年の「Fish Landings at the World’s Commercial Fishing Ports(世界の商用漁港における水揚げ)」は、商用規模の漁船が水揚げした商用漁獲高に基づく世界上位100港をランク付けしています。そして、OceanMindとPoseidonによる2019年の調査「Any Port in a Storm: Vessel Activity and the Risk of IUU-Caught Fish Passing Through the World’s Most Important Fishing Ports(窮余の策:世界の最重要港における漁船活動およびIUU漁獲物の通過リスク)」では、AISとその他のデータを組み合わせて港湾リスクの指標を開発しました。
この最新の調査のために、PoseidonとGlobal Fishing Watchは2020年のAIS記録を分析し、166,514か所の停泊地点の世界的なデータセットを作成しました。次に、それらの地点を港に集約し、漁船と運搬船が停泊港に「入港する」(停泊地点から3 km以内にAISの位置がある)ときと、「出港する」(停泊地点から4 km以上に位置がある)ときを特定しました。船舶が停泊港付近を単に通過しただけの(基本的な入出港基準を満たす)場合に入港記録を避けるために、停泊港停泊と停泊港ギャップという2つの事象が追加で記録されました。寄港地停泊は、船舶が停泊地点(「港内」)から3 km以内にあり、船舶速度が0.2ノット未満になると開始し、0.5ノットを超えたときに終了します。これらの停泊港は、寄港数を表すためにアルゴリズム的にグループ化され、通常利用される港湾と停泊港を表す場所にリンクされます。
変動する衛星の受信範囲と、AISの利用、データ品質を考えると、この分析ではすべての漁船が捕捉されるわけではなく、機能するAIS応答装置を搭載した漁船のすべてが捕捉されるわけでもありません。
Trygg Mat Trackingは、港湾と停泊港のデータのサブセットの品質保証レビューを行いました。そのレビューでは、一部の事象が特定の停泊港や寄港地に不適切に関連付けられていることや、国レベルで寄港数が過大にカウントされていた可能性があることが判明しました。調査チームはこれらの誤差を一部修正しましたが、全体として、問題の影響は範囲が広がれば相殺される傾向があるため、グローバルな分析ではほとんど影響がありません。
港湾のランキング、特に積載量に基づく港湾のランキングは慎重に利用する必要があります。これらの値は推定値であるため、比較目的でのみ使用すべきです。積載量に基づく港湾ランキングでは、漁獲物の積み込み、積み下ろし、または積み替えの可能性の合計を表すため、関心の的となりやすいものの、港湾の水揚げ量または積み替え量の推定値として解釈されるべきではありません。
この調査で最初に選択された153の沿岸国のうち、AIS搭載の漁船の入港を検出できなかった13か国(ベリーズ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、コモロ、エリトリア、ハイチ、ヨルダン、モナコ、ナウル、ニウエ、シリア、東ティモール)は除外されています。AISデータに基づき、操業中の漁港が特定された140の沿岸国のうち、2か国(バーレーンとニカラグア)では他国のAIS検出船舶の寄港がありませんでした。カンボジアやコモロなど、除外された沿岸国の一部は明らかに寄港国であり、これらの国々の除外は、世界中の漁船でAISテクノロジーの利用率が低いことに伴う限界の一端を表しています。
リスク指標に使用されているAIS以外のソースデータはデータを作成および運用する個々の組織が適用するプロセスによって決定されるため信頼できる品質です。調査では、さまざまなソースからの情報のスタイルや内容に矛盾があることを発見した場合、各国にできるだけ正確なスコアをつけるため保守的なバイアスを採用しました。