規則と成果: 国際漁業の改善方法
Pewでは、地球全体における漁業の管理体制を強化し、世界の海洋の健全性と復元性を 改善するための取り組みを行っています。
概要
海洋に対する最大の脅威には魚の乱獲があります。国際連合食糧農業機関(FAO)による2020年の報告では、 全魚種資源の3分の1が既に乱獲されており、全体のおよそ60パーセントがこれ以上の漁獲増に耐えられない 状態であることが伝えられています。同時に、生物多様性は乏しくなっており、海洋性哺乳類、サメ、及び関連種 のその他生物のうち33パーセントが絶滅の危機に瀕している、と国際連合では報告されています。 規則と成果: 国際漁業の改善方法 Pewでは、地球全体における漁業の管理体制を強化し、世界の海洋の健全性と復元性を 改善するための取り組みを行っています。
商業漁業に対する不十分かつ非効率な管理体制が、生物多様性低下の大きな要因となってきました。少なく とも、年間何十億ドルもの価値に相当する130種類の魚種資源が国際的に管理されていますが、それらの持続 可能性を確保するために一本化された規則はほとんど見当たりません。資源の回復を補助する科学に基づい た手段が存在し、その手段により漁獲活動が及ぼす他の海洋生物への影響を削減できるとしても、その規則の 裏をかく水産業従事者に対してはほとんど効果がありません。さらに深刻なことにこの状況は、違法、無報告、 無規制(Illegal, Unreported and Unregulated: IUU)の漁獲活動として広がりを見せています。一部の発展途上国 では、領海での全漁獲量の30パーセントを上回る割合をIUUが占めています。これは、漁業で生計を立てる沿 岸コミュニティの食料と経済の安全を脅かす脆弱な管理体制によるところが多いのが現状です。
しかしながら昨今は、国際漁業の管理体制に改善の兆しが見え始めています。そこには、海洋生物とそれらが 属する生態系の健全性を長期にわたり向上する新しい手法や、技術の進化、及び沿岸国、旗国、商業国、寄港国 の連携強化による不法漁業行為の取り締まりと締め出しが含まれます。また、既存の規則に対するコンプライ アンス改善のための取り組みや、管理システムを強化するための国際条例の策定も一翼を担っています。科学 的根拠のある適正な枠組みを構築し、主要ステークホルダーの理解と協力体制を向上できれば、健全性の高 い魚種資源を保持して持続可能な未来を迎えることができます。
持続可能かつ合法な漁獲活動を徹底する規則
商業的重要性の高い魚類の多くは、食料を求めて海洋を移動します。移動経路は複数の国の法域にまたがり、 公海まで達します。つまり、魚種資源管理が可能な海域もあれば、漁船に狙われやすい海域も含まれている ということです。これらの魚をどれだけ、誰によって、どのように、いつ漁獲できるかという事柄についての 規則は、国内法令及び規制の組み合わせや、地域漁業管理機関(RFMO)により定められています。RFMOは、 特定海域における魚種資源の管理と保存に関して実用的及び/又は財務的利害関係を共有し、その資源の 管理を協力のもと行うことに合意した複数の政府から構成される国際団体です。
残念ながら、これまでRFMOは乱獲の増加を食い止めるに至っていません。RFMOが管理する全資源のほぼ 50パーセントが既に乱獲されたか、あるいは現在乱獲の対象となっています。全体の95パーセントより広い海 域をRFMOが管轄していることを考えると、魚の個体数を健全な水準まで引き上げ、それらの魚がその海域に生 息できるよう維持するための効果的な管理手法を実践するために、さらに多くの対策を講じる必要があります。
漁獲戦略を使用した管理の近代化
従来の漁業の管理は、商業目的での漁獲量に対する定期評価のあと、管理者が実施すべき対応策を評価結果 に基づいて科学者が提案し、続いて管理者がどのような対策を採用するかについて協議を開始するというの が通常の流れです。漁業関連のデータは完全でない可能性があり、魚の個体数を把握するための統計モデル は使用しにくいものであるため、この資源評価は精密とは言えないこともあります。つまり、科学的提案があい まいになったり、管理措置の選択肢が多岐にわたってしまうことがあるわけです。意思決定におけるリスクを軽 減するために、管理者が科学的提案や慎重なアプローチに従う姿勢でいる場合でさえ、管理方法の決定に対 する明確な枠組みがないため、協議は難航し、時間と経費を浪費してしまうことがよくあります。
毎年行われる漁獲枠の協議に対するより効果的で効率性の高い選択肢として、漁獲戦略として知られ、管理手 順とも呼ばれる新しいアプローチを採用し始めているRFMOもあります。このアプローチには、各漁業に課され る長期管理目標と、その目標が達成可能にする科学的分析に基づいた漁獲量水準を自動で設定するシステム について、各政府が合意する必要があります。あらゆる資源レベルにおいて実行する管理手法を確定するこ とで、魚種資源に対する漁獲戦略の結果は透明性を増し、予測しやすくなるのに加え、市場の安定性が向上し ます。様々な管理アプローチがいかに有効であるかを科学的に証明し、長期目標に最も適した方法を選択する ことにより、漁獲戦略を通じて高い確率で将来の魚種資源を確保し、漁業の健全化を図ることができます。
脆弱な海洋生物の保護
海洋生態系全体に漁獲活動が及ぼす有害な影響に対処するための取り組みは、健全で柔軟性のある漁業を 持続する上で非常に重要です。サメやウミガメ、クジラなどの海洋動物は、海中での大切な役割を担っている ため、直接的に漁獲対象ではない場合でも、国際漁業から特に影響を受けやすいと言われています。実際には 対象でない生物が予期せず捕獲されてしまうことを示す混獲により、結果としてサメの乱獲や、その他希少種 又は影響を受けやすい生物の個体減少につながることがあります。漁獲活動が及ぼす、マグロやサメといった 影響を受けやすい種類の海洋生物への影響を軽減することは肝要な目標であり、その目標には、生態系に基 づいて国際レベルで実行すべき漁業管理に対して目に見える改善を伴っている必要があります。このような改 善によって、混獲が軽減されるだけでなく、稚魚の育成海域や放卵場所が保護されるため、価値ある生息海域 を確保することにもつながります。
はえ縄漁業と積み替え作業に関する管理の改善
はえ縄漁を行う船舶は主に、クロマグロ、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンナガマグロのような高価値のマグ ロの捕獲に使用されます。この船舶には、数千の釣り針が取り付けられた最長約130キロメートルにもおよぶ ロープが設置されているため、サメやウミガメ、ウミドリなどの海洋生物が頻繁に混獲されてしまいます。多く の場合この船舶は、漁で捕獲した魚を規模の大きな貨物船に移し替えます。そして、その貨物船が港へ魚を運 搬します。この行為は積み替えとして知られる合法の漁業様式ですが、IUU漁業や、その他の不法漁業にも多く 使用されています。はえ縄漁業と船舶の積み替えは、最も規制の緩い漁獲活動に数えられます。漁船や貨物船 上での漁獲管理も最低限しか行われていないのが実情です。効果的な監視体制が整っていないため、悪徳事 業者は財務利益に対する漁獲活動の実績データを過少申告したり、漁業申告そのものをまったくしないケース もあります。中西部太平洋だけで、年間推定1億4,200万ドル相当の漁獲高が、違法な漁獲積み替えにより収穫 されています。1
幸いにも、新しいテクノロジーと情報の共有により、この困難な状況が打開できます。はえ縄漁船に電子報告と 電子監視を課すことで、当局による漁業活動の監視を強化することができ、透明性が向上します。これらのシス テムを使用すると、漁船からの報告がより正確になり、漁獲活動に対して漁業担当者により適切な責任を課す ことができます2。また漁獲積み替えの管理は、報告、監視、データ共有を強化することにより改善することがで きます。FAO水産委員会は、各国政府とRFMOによる、より透明かつ安全で合法的なシステムの構築を後押しす る国際漁業積み替えガイドラインの作成に着手しました。
各国の責任
漁業活動に関する規定と管理には大きな隔たりがあるものの、旗国、沿岸国、寄港国、商業国のいずれかであ る関係諸国政府による様々な対応策が、漁獲活動を規制する管理体制の強化と国際基準の向上を目的として、 既に実施されています。国際的な合意と条約は、各旗国が実施する個別の対応策との相乗効果によって、海洋 と漁場の健全性に多大な影響をもたらすことがあります。
旗国の責任
旗国とは船舶が登録されている国であり、公海上の船舶に対して司法及び行政上の排他的権限を有してい ます。旗国は、すべての海域において、登録や労働基準から、安全要件に至るまで独占的に管理します。旗国の 責任は、国際条約、国際法、国際協約により定められています。しかしながら、違法の漁獲行為に対する国際的 要件を各国がどのように遵守しているかを評価し、規制が比較的緩慢であったり、国際法の執行状況が不十分 であるなど、意識の隔たりを埋める努力を各国に促すための新しい基準が必要です。
寄港国措置協定
2009年に採決された「違法な漁業、報告されていない漁業及び規制されていない漁業を防止し、抑止し、及び 排除するための寄港国の措置に関する協定(PSMA: 違法漁業防止寄港国措置協定)」が、2016年に発効しま した。この種の内容では初の条約であり、寄港国が別の旗国に登録された船舶から港に降ろされた水揚げを、 どのように検査すべきかを定める国際規則を成文化及び標準化したものです。同条約は、違法漁業行為により 収穫された魚の水揚げを限りなく不可能にすることで、違法漁業が行われないよう促す役割も果たします。 現在、欧州連合を含む60を超える数の団体により支持されているこの協定ですが、実行されてこそ意味がある とも言えます。関連国による協力と、適時な情報共有、特に漁船が入港する前の報告が不可欠です。また、協定 に違反して収穫された魚が水揚げされるリスクを軽減するために採用すべき手順もあります。その中には関連 国が協力的連携を図り、情報を共有することが含まれます。また規制強化のために、それらの国々がPSMA団体 により指定された寄港先を公にすること、さらには国内の漁業責任者が適正な研修を受け、PSMAの対策を実 行するのに十分なリソースを確保していることも重要な要素となります。
ケープタウン協定
漁業は危険を伴う職業であるにもかかわらず、漁船、乗組員、船上監視員は、ほぼすべての国際海事規制から 除外されています。3 しかし、国際連合の国際海事機関により2012年に採択され、批准の待たれる多国籍協定 であるケープタウン協定により、様変わりする兆しがあります。この協定は、長さ24メートル以上の漁船に対す る設計、構造、設備に関する基準の概要を規定するものです。また、漁獲活動、労働、安全に関する調和された 検査への協力を求めるのに加え、国内及び国外の漁船と、乗組員の安全対策から漁業の実施方法に至るまで、 その活動をあらゆる角度から検査する権限を、沿岸国、並びに旗国の当局責任者に与えるよう、関連各国に促 す役割を果たしています。合計22ヵ国、総計3,600隻の対象漁船が、この協定を批准しなければなりません。 ケープタウン協定が発効されると、世界で最も危険を伴う職業とも言える漁業に対する安全基準を世界規模 で引き上げられるだけでなく、各国に対しては、その国に登録される漁船、またはその領海で漁を行う漁船に 対して乗組員の安全性を確保する責任を課し、水揚げ作業の安全かつ合法的な実施を徹底することに利用で きる、有効な権限が与えられます。
漁業規則の不履行に対する措置
効果的な国際ガバナンスには、規則が無視された場合、あるいは違反があった場合に使用する有効措置が必 要です。しかしながら、各国に魚種資源の割り当てがあったり、違法漁業行為に対応する協定を締結している場 合においても、規則に違反した政府や漁船に対して適切な措置が下されることはほとんどありません。
RFMOでの効果的なコンプライアンス
漁獲制限、収穫戦略、RFMO基準での違法漁業撲滅への取り組みは、効果的な制度内で追跡調査され、協定の 順守と違反への適切な罰則を徹底する必要があります。コンプライアンスのプロセスを設定するRFMOもあ れば、システムが不十分なRFMO、さらには何も対応していないRFMOもあります。
RFMOは少なくとも、加盟国の漁業活動が港と海洋で現存の管理手法を遵守しているかを審査し、協定を順守 していない国に登録された漁船に対して措置を下すように加盟国に責任を課す必要があります。さらに、協定 の大幅な不遵守、または執拗に継続する不遵守に対する措置を策定しているか、あるいは透明性を促進し、 責任を明確化するために、NGOを含むステークホルダーの審査方法の見直しを実施しているか、なども重要 なポイントです。
地域の協力と多国籍対処
条約を支持すること、及び関連国政府に対して漁業に関する既存の規則を守るよう求めることが肝要な第一段 階ではあるものの、規則を施行することも同様に重要なことです。規則の施行は喫緊に改善される必要があり ます。特に違法漁業や海洋の不法行為にさらされている沿岸の発展途上国では深刻な課題です。これらの国 の行政機関は、違法行為に関して適切な情報収集手段を持ち合わせていないことが多く、そのような行為を発 見した場合の対策も講じていないことも多々見受けられます。この問題に取り組むため、Pewは世界中の海洋 当局と連携し、各国の軍事研修及び演習の中に漁獲活動における規則実行の徹底を統合するよう働きかけて います。違法漁業は他の犯罪行為と結びつくことが多く、国内の安全性を広い範囲で脅かす可能性がある ため、当局が漁業を環境問題や管理体制問題として考慮するだけの状況を反転する必要があります。
海洋の広い範囲における船舶の航行地点と行動に関して、海軍が情報を共有する前例が、国際的に確立され ています。海軍は、その活動と漁船の監視及びIUUに対する水産関連検査を統合することにより、沿岸警備隊と 連携した海上保安アプローチを、より総体的に実践することができます。また、監視機能に乏しい関連諸国がそ の領海ガバナンスを確立できるようサポートすることも可能です。
一例として、東アフリカの沿岸8ヵ国の同盟であるFISH-i Africaが、違法活動の疑いのある40を超える漁船に対 する措置と罰則をまとめる手助けをしています。アフリカでのこの成功体験と同様に、政府、産業界、市民社会 のステークホルダーが複数国にまたがる効果的な対策を講じるために、中南米から太平洋にかけてさらなる 世界的連携が必要です。
市場の連携
すべての海産物は、持続可能かつ合法的な手段で調達されているというだけでなく、水産業のあらゆる工程で 労働者が被害を被ったり、不当な扱いを受けることがないという保証を、消費者が求めるケースがますます増 えてきています。この目標を達成するために、海鮮食品業界も大きな役割を果たすことができます。同業界の 力で、各国政府とRFMOがそれぞれ定めた旗国及び寄港国の要件を遵守する漁船と政府からのみ魚介類の調 達が行われるように徹底しなければなりません。海鮮食品業界全体のステークホルダーは、効果的な漁業法が 確立されるよう後押しし、規則を遵守しなければ、魚介類は購入されず、利益の損失になるという明確な結果 を違反者に突き付けることができます。
まとめ
海洋及びそこに生息する海洋生物は、長期的に存続していけるかという課題と対峙しています。また、一貫した 規則が欠落しているため、その損害は魚だけに留まりません。世界中の国々、漁業関係者、海鮮食品業界の経 済の長期的安定は、魚種資源の健全性にかかっています。海洋の環境保全に対する取り組みを強化し、合法的 かつ持続可能な手法を漁獲に対して徹底することが、食品安全性の向上と地域社会の繁栄につながります。
漁業活動の管理体制を改善するのに利用できる対策は既に存在しています。しかも、新規手法も開発されて いるのです。今日、海洋における最大の懸案の1つである乱獲を撲滅するために、各国政府、RFMO、国際組織、 水産業界が連携することができれば、漁業に関する地球規模の強固なガバナンスを構築することは可能です。 チャンス到来の今こそ行動を起こす時です。
巻末注
- D. Souter et al., “Towards the Quantification of Illegal, Unreported and Unregulated (IUU) Fishing in the Pacific Islands Region” (MRAG Asia Pacific, 2016), http://www.ffa.int/files/FFA%20Quantifying%20IUU%20Report%20-%20Final.pdf.
- T. Emery et al., “Changes in Logbook Reporting by Commercial Fishers Following the Implementation of Electronic Monitoring in Australian Commonwealth Fisheries,” Marine Policy 104 (2019):135-45, https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0308597X18307218.
- G. Petursdottir, O. Hannibalsson, and J. Turner, “Safety at Sea as an Integral Part of Fisheries Management” (U.N. Food and Agriculture Organization, 2001), https://agris.fao.org/agris-search/search.do?recordID=XF2001400245.