毎日、世界各地の遠洋で捕獲された魚は、漁船から冷蔵貨物船 (漁獲「運搬船」) に移され、港の加工場まで運ばれます。多くの場合、いわゆる「積み替え」と呼ばれる貨物輸送に関するデータやそれがどの程度規制要件に沿って実施されているかについてのデータが乏しいため、違法漁獲物が水産物サプライチェーンに入り込む可能性があります。
2016年の調査では、中西部太平洋だけでも、毎年1億4,200万ドルを超える違法・無報告・無規制(IUU) 漁業によって水産物が積み替えられ、そのほとんどが認可漁船によって誤って報告されているか、全く報告されていないと推測されています。1
The Pew Charitable Trustsでは、市販の自動識別システム (AIS) データと機械学習テクノロジーを組み合わせ、最新の2016年のデータを利用して、中西部太平洋まぐろ類委員会 (WCPFC) により規制される海域で操業する運搬船の動きを分析し、積み替えに関して理解を深めています。研究者たちは、この分析をWCPFC加盟国と委員会の事務局が公開している積み替えと運搬船に関する情報と比較しました。
報告書「太平洋西部における積み替え: 運搬船の動向を理解し、透明性が向上すると積み替え管理の改革に役立つ」によると、運搬船に求められている積み替えの報告内容と船籍国が提出する報告に矛盾があり、WCPFCが管理する海域での積み替えに関しては不備が見られます。一部の積み替えは報告されておらず、他の不備については基準に基づく対応がなされていないことによるものと考えられます。一部の運搬船ではAIS (国際海事機関により国際航海を行う総トン数300トン以上のすべての船舶に利用が義務付けられる衛星測位システム) をアクティベートしていないため、独立した機関による監査の実施や運搬船の活動の検証が難しくなっています。
報告の要旨:
PewによるAISデータの分析では2016年に公海上のWCPFC条約海域で1,538回の積み替えが行われた可能性があることが判明しました (図1) が、船舶事業者により事務局に報告された公海上の積み替えは956回のみでした。3さらに、WCPFC加盟国の排他的経済水域 (EEZ) では、700件を超える事案が発生している可能性があります (図2)。
8か国のWCPFC加盟国を旗国とする100隻を超える運搬船により、条約海域において2,200回を超える積み替えが行われた可能性があることが明らかになっています。この数に以下の事案は含まれていません:
Pewでは、2016年に公海上の積み替えを報告した5隻の各船団のAISデータを使用してヒートマップ (図3および図4) を作成し、運搬船団の動向を旗国別に分析しました。これらのマップは運搬船の交通量を表しており、特に太平洋において船団の移動が集中した場所を示しています。
図3は主にマーシャル諸島とミクロネシア連邦のEEZにおける、条約海域の中央部における86隻のパナマ船籍の運搬船の動きを示しています。赤色の領域は太平洋の港への船舶の寄港回数が多いことを示しています。これにはおそらく公海上やEEZ内ではなく港湾での積み替えが必要な巻網漁船団によって捕獲されたカツオの積み替えが含まれています。
パナマ船籍の運搬船とは対照的に、中華台北船籍の運搬船16隻 の 動 向 は 、特 に 重 複 するRFMO管轄の海域で公海に集中しており、巾着網漁船団よりも延縄漁船団と関わり、おそらくメバチおよびキハダマグロの積み替えが行われていたことがうかがえます (図4)。
Pewではこれらのヒートマップを分析することによって、中西部太平洋における積み替え業の複雑な性質、および旗国別に運搬船の活動パターンのばらつきについて理解を深めることができるようになりました。
今回の報告書では中西部太平洋まぐろ類委員会 (WCPFC) による管理と全米熱帯まぐろ類委員会 (I AT TC ) および北太平洋漁業委員会 (NPFC) の管理が重複している海域で、積み替え活動が集中して行われている可能性が高いことが明らかになりました。実際、AISにより検出された公海上で行われた可能性のある積み替えの半分以上は、RFMOの管轄が重複する2か所の比較的狭い海域、つまり日本沖の公海と太平洋中央部のIATTC/WCPFCの重複地域で行われていました。
図5は、両委員会が積み替えを許可したWCPFC加盟国、協力的非加盟国、および参加地域 (総 称して「CCM」) の運搬船により、日本沖の公海上で行われた可能性のある積み替えを示しています。船舶の動向により、公海上の二重に管理された海域で行われた可能性のある26隻の運搬船が関与した600件近い積み替えがあるのが分かりました。ただし、いずれの船舶もWCPFCに対して積み替えを報告していません。NPFCが管理している魚種のみを運搬していた可能性はあります。
図6は、WCPFCにより許可を受けた協力的非加盟国6か国を旗国とした運搬船により、IATTC/WCPFCの重複領域で行われた可能性のある積み替えを示しています。船舶の動きにより、2つのRFMOが共同で管理している太平洋の比較的狭い地域で、22隻の運搬船が関与する216回の積み替えが行われた可能性があることが分かります。
これら2つの重複するRFMO海域で行われた可能性のある積み替え回数が多いということは、両委員会が強力な監視・報告機構を設立しない限り、一部の事象や魚種の把握が適切な組織に報告されないことがある可能性が高いのです。
WCPFCの条約海域における積み替えの管理には不備があります。船舶およびその旗国当局に報告されるデータに欠落や不備があり、またWCPFC加盟国が義務付けられている報告を基準に則して行っていないため、正確な監査がしにくく、報告や検査が実施されないまま積み替え活動が行われるリスクが増加しています。
2016年にWCPFC海域で積み替えの報告を提出した運搬船25隻に対し 、認 可 運 搬 船 の 少なくとも5倍の数の活動が見られました。WCPFC海域での他の運搬船の動きを見ると、事務局に報告されている数よりもはるかに多くの積み替えが海上で行われた可能性があります。この調査結果は、この海域での操業が識別されている運搬船の旗国CCMの報告が不十分なことにも裏付けられています。これらの海域で確認された無認可船舶も、WCPFCが管理する魚種の受け渡しを含む積み替えを行っていた可能性があります。
最後に、WCPFCの管轄とRFMOの管轄が重なる海域において、積み替えデータ共有の取り決めがないため、無報告の積み替えが発生する可能性が高まっており、管理しているすべての種類について捕獲した海産物の報告が不正確となり、資源評価に影響を及ぼすおそれがあります。
IUU漁業により、加盟国の港が中抜きされてしまう可能性を最小限に抑えるため、WCPFCは規制の枠組みを大幅に強化し、他のRFMOの規制と整合性を取らなければなりません。
WCPFCと他のRFMOは、報告書で明らかになった問題に迅速に対応し、積み替えの管理に不備が生じないようにする必要があります。この活動の監視を強化するために委員会は、Pewの「積み替えのためのベストプラクティス」に概説される改革の実施を検討すべきです。
この報告書は、条約海域における船舶の運航をより透明化するための出発点にすぎません。調査、分析、措置を継続することにより、WCPFCは他の地域でも積み替えを効果的に管理する模範を示せるかもしれません。