多くの国の水域を横断する高度回遊性魚類の捕獲については、世界中の地域漁業管理組織(RFMO)が監督 責任を負います。RFMOでは、漁業の持続可能性を確保するため、何が、どのように、どこで漁獲されているか、規則や規制が守られているかどうかについて、信頼できるデータが必要とされます。多くのRFMOでは、データを収集するため巻き網漁船に監視担当者の乗船を義務付けていますが、他の種類の漁船からのデータ収集は困難であり、結果として科学的プロセスや法令遵守プロセスの有効性が低下する可能性があります。漁船団の監督業務の向上に努めるRFMOにとって、電子監視(EM)は目標を達成するための効果的な方法になります。 EMシステム(漁船上のカメラ、コンピューター、GPS、機器センサーの組み合わせ)によって、人間の担当者に
よる監視を補完することができます。EMは個別に監視されていない漁船データを収集するためにも使用できます。システムを導入している多くの組織は、EMプログラムを開発し、情報を収集、転送、分析、保存する方法についての基準を策定しています。管理者、科学者、漁船所有者は、このデータを使用して効果的な漁業管理を行うことができます。
多くの実証実験では、EMによって法令遵守が劇的に促進され、報告が改善されることを示しています。例えば、 オーストラリアでの最近の研究によると、このシステムを導入した漁船では廃棄された漁獲と保護種への対応 (安全な取り扱いとリリースを含む)についての報告が大幅に増加しています。1
EMプログラムの対象は通常、地域内または国内の漁船に限定されます。RFMOが同プログラムを設計し、導入 する際には、漁船の種類が多種多様であること、多くの国が関係していること、広大な水域を対象とすることな どの課題に直面します。このファクトシートには、EMプログラムの開発時にRFMO側で考慮すべき要素と設計オ プションのいくつかの例が含まれています。政治指導者、RFMOスタッフ、国の漁業管理者、業界関係者、非政 府組織を含む利害関係者のための資料としてご活用いただけます。
RFMOでは、EMプログラムの開発時に5つの要素を考慮する必要があります。詳細については、The Pew Charitable Trustsから委託されたCEAコンサルティングによる2020年のレポート、「RFMOの電子監視ロード マップ」を参照してください。2
EMプログラムの設計および導入においては、透明性のある参加型のプロセスが不可欠です。利害関係者から の賛同がないプログラムは、賛同を得たプログラムほど成功しないことがいくつかの研究で示されています。3 心配している内容はグループごとに異なるため、各人が質問し、学んだ教訓を伝え、解決策を共同で編み出す ためのプラットフォームを用意することが大切です。また、プログラムを導入した後にも継続的にフィードバック できる仕組みを確立することも重要です。
EMシステムには様々な用途があるため、目的を明確にすることが重要です。その目的により、機器や費用から データの対象範囲やデータ分析のレベルに至るまで、プログラムのあらゆる面で詳細が判明します。漁業管理 者は目的を定める際に、監視における課題、またEMシステムの導入により経済的、効率的、また正確に収集で きる追加データについて検討する必要があります。
管理者はその目的に基づいて、何割の漁船にEMシステムの搭載を求め、どのような活動を記録するかを決定す る必要があります。すべての船舶にEMシステムが搭載され、船内のあらゆる行動も電子的に収集するのが理 想的です。完全なカバレッジにより、適切に監督され、漁業活動全体を表すデータを確保できます。
RFMOのEMプログラムは、RFMO全体で設計されたものと、分散型システムとして国または地域のプログラム で構成されたものの2種類のカテゴリーに分類されます。どちらのタイプを導入するかはプログラムの目的、 RFMOの歴史、および地理的条件によって決まります。これらの要素はベンダーとの契約、費用の分担、ハード ウェアとデータの基準、および国内法の策定にも影響を及ぼします。
プログラムには定期的な評価を含めるようにし、漁業の状況が変化した場合でも有効性を維持できるように します。この評価はRFMOが予想しなかった問題に取り組み、プログラムでの新テクノロジーの導入を促進し、データ分析プロトコルを改善するのに役立ちます。レビュープロセスを経ることで管理者は確実にプログラムを 成功をさせ、業界の追加支援を確保することにもつながります。
漁業管理者が目的とプログラムの構成を決定した後は、データの収集、送信、保存の方法についての合意が 必要です。EMプログラムには、加盟国や漁船団間の統一性を確保するための頑健な基準を含めるのが効果 的です。この基準により、EM記録サイクルの明確な方向性が定まるとともに、利害関係者に対する透明性が高まり、相互運用性が向上します。
データの抽出とビデオ記録のレビューは、EMプログラムの中で最もコストのかかる部分になりかねません。 RFMOは、最小限のデータ基準を満たして重要なデータフィールドを含める必要性と、コストが増えることでプログラムに過度の負荷をかけないようにすることとの間のバランスを慎重に図らなければなりません。EMプログラムではまた、映像のレビュー方法、分析する記録の割合、レビューを担当者を決める必要もあります。最後に、漁業管理者はデータアクセスチャートを作成して、乗組員やデータの機密性などプライバシーに関して生じかねない問題について考慮しつつ、ビデオ記録を扱う方法とこのデータにアクセスできる機関を定める必要があります。
EMプログラムを設計する上で多くの要素は運用に関することや技術的なことに思えるかもしれませんが、利害関係者は設計プロセス中一貫して従事すべきです。上記の要素を個別に検討することにより、漁業管理者はEMプログラムが確実に成功するように支援します。