海洋の健全性に対する最大の脅威の一つ、違法・無報告・無規制(IUU)漁業に対する有力な解決策として、寄港国による措置は重要な役割を担っています。この違法行為により世界の漁業は持続可能性に圧力がかかり、健全な魚類の個体群に依存する沿岸諸国の経済に有害な影響が及びます。
2016年に発効した国連食糧農業機関の寄港国措置協定(PSMA)では、違法漁獲物の国内市場および国際市場への流入を防ぐために、港湾で魚を水揚げまたは積み替えしようとする外国籍船の管理を強化することを加盟国に求めています。
国家がどのように港湾を管理しているか、IUU漁獲物が流入するリスクに対してどの程度脆弱であるか、さらに国家がこの問題に対処する上での進捗状況について客観的な知識が限られていたため、協定の履行を支援する国際社会のイニシアチブが妨げられていました。
「窮余の策: 世界の最重要港における船舶活動およびIUU漁 獲 物 の 通 過リスク(Vessel Activity and the Risk of IUU-Caught Fish Passing Through the World’s Most Important Fishing Ports)」というThe Pew Charitable Trustsが支援し、海洋・沿岸経済学雑誌(Journal of Ocean and Coastal Economics)に掲載された、査読済みの調査では、どの国の港湾が違法漁獲物の通過のリスクが最も高く、PSMAの導入効果が最も高いかを示しています。
リスクを定量化するために、ポセイドン水産資源管理(Poseidon Aquatic Resource Management)およびOceanMindの研究者たちは、2017年に漁船および運搬船によって送信された自動識別システム(AIS)位置データを利用し、外国船および国内船の寄港頻度、船舶の積載量に基づいて140か国の沿岸国の漁港のランキングを作成しました。さらに、国内および国外のリスク要因の指標を使用して、IUUで漁獲された魚が入港する可能性、およびこの種の漁獲物を運搬する外国船が入港したり、港湾サービスを利用したりしないようにするための十分な法令や規制があるかどうかを確認する評価ツールを作成しました。個々の港湾を選定して分析した 結果、主 要なPSMA規定がすべて履行されている港湾は1つもなく、世界中で改善の余地があることが明らかになりました。このプロセスでは、寄港国がどのような措置を講じ、どの程度効果的に実施されているかについての透明性を高めることから始めることができます。
世界 のほとんどの地 域 は、外 国 漁 船と運 搬 船 の 寄港 数、外 国 漁 船 の 積 載 量、外 国 運 搬 船 の 積 載 量でランキングされた上位10位の港でカバーされます。北米、中東、およびオーストラレーシアの海岸線にある港は、ランキング上位に出てきません。有名な北米やオーストラレーシアの港が出てこないのは、これらの地域を旗国とする船舶が通常同じ国内の港に戻ることが原因と考えられます。
研究者たちはAIS搭 載 の 漁 船 や 運 搬 船 の 寄 港 数 に 基 づ き、世 界 の 上 位10位の港湾は、すべて中国にあることを発見しました。中国の大規模な漁船団は主に国内の港で運航されているため、この所見は納得がいくものです。これらの港湾への寄港はほとんどすべて国内船によるものです。
大 型 の 外 国 漁 船 や 運 搬 船 の 多くは 、マジュロ港(マーシャル 諸島)、ス バ 港(フィジー)、ポートルイス 港(モーリシャス)などの海の真ん中の港湾を利用して漁獲したマグロを積み替えたり、水揚げしたりしますが、巻き網漁船の活動は太平洋中西部およびインド洋の公海では許可されていません。主要な漁場の近くにある欧州港は、欧州船団にとって便利な水揚げ地点となります。たとえば、大西洋南部のラスパルマス港(スペイン)やバレンツ海のキルケネス港(ノルウェー)があります。
釜山(大韓民国)には、かなりの積載量のある国内および外国船舶が頻繁に寄港しますが、外国からの寄港の91%はロシア、中国、およびパナマ船籍の船舶によるものです。同様に、中国、中国台湾省、そして大韓民国の3か国は、スバ港への外国船の寄港の94%以上を占めています。
外国漁船積載量の上位10港には、漁船が運搬船に漁獲物を積み替えるオフロード港と、加工のために魚を水揚げするターミナル港の両方が含まれています。その中には多くの外国運搬船が寄港する西アフリカ本土のアビジャン港(コートジボワール)、ウォルビスベイ港(ナミビ ア)、ヌアジブ港(モーリタニア)が含まれています。外国運搬船積載量上位10位以内の港は、ほとんどがターミナル港です。その中には運搬船が頻繁に訪れ、世界のマグロ漁獲量の約4分の1が 入 荷 す る バ ン コ ク(タイ )が 含 ま れ ま す。
IUU漁業により捕獲された魚が140か国の港湾を通過するリスクを評価する指数は、AISによって検出された寄港国の船舶トラフィックのレベルと国内リスクおよび国外リスクの要因を組み合わせて算出しています。国内リスクの指標には腐敗認識レベル、国外リスクの指標にはIUU漁業に従事する可能性が高い船舶の寄港数などがあります。各寄港国に適用される完全なリスク評価基準を以下に示します。
報告書のIUUリスク指 数( 図1および2に表示)では、国内リスク、国外リスク、および総合リスク(2つのリスクの平均)に基づいて港湾国のスコアを付けてランキングしており、スコアが低いほどリスクが低いことを示しています。国内リスクスコアの世界平均は2.30で、最 低 スコアはグレナダの1.21、最高スコアはパプアニューギニアとロシアで3.38です。国 外リスクスコアの世界平均は2.48で、アンティグ ア・バーブー ダの1.76からロシアとベネズエラの3.41まで 分布しています。総合リスクスコアの世界平均は2.40で、グ レ ナ ダ の1.55からロシアの3.39まで分布しています。
国内リスクまたは国外リスクのカテゴリーの1位となった国は通常いずれかの分野であり、両方で1位になることはほとんどありません。国内リスクは、1~3.5のスコアの範囲で均等に分散されていますが、国外スコアは2~3の間に集中しています。調 査 結果にはIUUリスクのエクスポージャーが国家や地域によって異なることが示されていますが、リスクに対応する方法が国家によって違うことも考慮する必要があります。寄港国措置は国内法を策定し適用して管理を強化できる一方、国外リスクは国内の法令で部分的に緩和できるに過ぎません。
地域ごとの指数ランキングは左から順に高リスクとなります。
全体として最も状態が良いのは北米で、欧州がそれに続きます。他の国を評価するEUや米国のIUUコンプライアンスシステムでは多少自国に有利な判断になる傾向がありますが、国内リスクの平均スコアが最も低いこれら2つの地域の寄港国はPSMAに沿った法令を採用しており、RFMO機 構 の 中 で もよい 状 態 に ありま す。アジ アと近東は最も状態が悪い地域です。近東では国内リスクの重要度が増しており、アジアでは国外リスクの重要性が増していますが、それは一般に旗国の管理が弱いことが原因となっています。アジアには世界的に重要な水産市場があり、さまざまな船籍の非常に異なる船舶を多数受け入れているため、後者の結果は驚くべきことではありません。
研究者たちは詳細な分析を行うため、食糧農業機関(FAO)の7つの主要な地域1のそれぞれから2つ 、合 計14の漁港を選定しました。各地域において研究者たちは異なる収入レベル、マグロを水揚げする港とマグロ以外を水揚げする港の組み合わせ、荷揚げ港と積み替え港、および国内船が多いまたは外国船が多い港の選定を試みました。港湾と国家の両方が寄港国措置をどの程度導入しているか、またAIS監視のもと入港した漁船と運搬船の識別情報を調べました。寄港国の分析の場合と同様に、港湾リスクの評価では、実際にどのように実施しているかではなく、設定されたフレームワークと対策のみが評価されます。
偶然である場合を除き、港湾は必ずしも国家または地域の実態を代表するものではないことが明らかになっていますが、主要なPSMA規定をすべて履行している港湾は1つもありません。
研究者たちが詳細に調査した代表的な港湾の組み合わせを考えると、国家および個々の港湾が主なPSMA規定を履行するためにすべきことがあることは明らかです。情報源やリソースの公開は、FAOに より( 主 な 条 約 規定で)示されているものの、限られています。
国家に向けた主な推奨事項を以下に示します。報告書には推奨事項の完全なリストが含まれています。
さらに、FAOは情 報システムを強化し、加盟国がPSMAをどのように実施しているかに関するデータを公開する必要があります。データには国家が利用可能にしているならばPSMAが求める最小要件を上回るものも含まれます。
この調査では、各地域で違法漁獲物の入港や市場に侵入するリスクをどの程度軽減できるか、またIUU漁獲物の運搬船が寄港するリスクがどの程度あるかについて重要な相違が明らかになっており、すべての地域でパフォーマンスの弱い港湾と強い港湾があることを示しています。主要なPSMAの規定を国内慣行に取り入れる点では大いに改善の余地がありますが、港湾を指定し、措置に関する情報を公開することから始める必要があります。
この調査では、IUUリスクの分布が明らかになっただけでなく、収入や腐敗などの要因との関係を示すことにより、これらの漁業以外問題が条約の義務を履行する国家の能力の妨げとなる可能性があることも示しています。ただし、調査結果によると国家がコンプライアンスを改善すると、リスクの高い船舶が寄港する可能性が低くなり、PSMAを完全に実施する方がいいという確固たる論拠となることが明らかになっています。
この調査では、2015年のPoseidonによる過去の評価、「世界の商業漁港における水揚げ(Fish Landings at the World’s Commercial Fishing Ports)」に基づき、あらゆる産業規模の船舶によって水揚げされた商業漁獲高によって世界の上位100港をランキングしました。
この新しい研究では、OceanMindとPoseidonの研究者たちがAISを他のデータソースと組み合わせ、港湾リスクを判断するための指標を作成しました。2017年の全世界のAISレコードを 分析し 、漁 船 や 運 搬 船 が沿岸から12海里以内で停船したタイミングを特定しています。これらの停泊港は、寄港数を表すためにアルゴリズム的にグループ化され、通常利2用される港湾と停泊港を表す場所にリンクされます。船舶積載量は、国内か外国かに関 係 なく、世 界 中 の3,000を超える港湾と停泊港の分類に使用されました。
AISデータについての分析:
変動する衛星の補足範囲と、AISの利用、データ品質を考えると、この分析では、機能的なAIS応答装置を装備した漁船であっても、世界中のすべての漁船を捕捉できるわけではありません。
異なる国/地域の港湾に独自の特性がある場合、アルゴリズム分析をグローバルに適用することには限界があります。一部の事象は特定の港湾に不適切に関連付けられているかもしれず、港湾への船舶の寄港をまとめることができなかったため、寄港国レベルで寄港数が重複している可能性もあります。World Port Index3にリストされている港湾に割り当てることができず、不明の港湾または停泊地への寄港数として分類された事象も多くありましたが、外国船籍で不明の港湾への寄港はわずか8.5%でした。これらの問題は、範囲が広がれば相殺される傾向があるため、グローバルな分析ではほとんど影響がありません。
港湾のランキング、特に積載量に基づく港湾のランキングは慎重に利用する必要があります。これらの値は推定値であり、比較目的でのみ使用すべきです。積載量に基づくランキングは、漁獲物の積み込み、積み下ろし、または積み替えの可能性の合計を表すため、関心の的となりやすいものの、港湾の荷揚げ高または積み替え高の推定値として解釈されるべきではありません。
この調査で選択された153の沿岸国のうち、AIS搭載の漁船の入港を検出できなかった13か 国(バ ルバドス、ベリーズ、ボスニアおよびヘルツェゴビナ、カンボジア、ドミニカ、エリトリア、ハイチ、ホンジュラス、ヨルダン、モナコ、ニカラグア、ニウエ、およびセントルシア)は排除されています。AISデータに基づき、操業中の漁港が識別された140の沿岸国のうち、3か国(バーレーン、コモロ、セントビンセントおよびグレナディーン諸島)では外国のAIS検出船舶の寄港がありませんでした。バルバドスやカンボジアなど、除外された沿岸国の一部は明らか に 港 湾 国 で あり、世 界 中 の 漁 船 でAISテクノロジーの利用率が低いことによって生じる限界の一部がすでに表れています。
指標に使用されるAIS以外のソースデータの品質は信頼性が高く、これらのデータを作成および運用する個々の組織によって適用されるプロセスに依存します。さまざまなソースからの情報のスタイルや内容に矛盾が見つかった場合、研究者たちは控えめに見積もりを行い、各国のスコアが本来のスコアよりも良くならないようにしました。